東野圭吾の考読学

東野圭吾ファンの筒美が、東野作品の感想やそれについて考えたことなどを綴ります。現在は、それ以外の作家さんのことや作家さんが書いた本などについても書いています。

『夢はトリノをかけめぐる』

 『夢はトリノをかけめぐる』 (光文社文庫)は、本の題名と同名(以下「夢はトリノ」と略す)の冬季オリンピックを紹介するエッセイと『2056 クーリンピック』という短編小説から成る280ページくらいの本である。本の題名は、前半のエッセイの題名からとっている。

 「夢はトリノ」の方が250ページくらいあって圧倒的に分量が多い。内容的には一応エッセイと言ってよいと思うが、形式的には猫が人間に変身した夢吉という中身は猫であるところの人間と、作者の分身だと思われる「おっさん」と呼ばれる中年の男の会話中心に進行していく小説である。
 「夢はトリノ」の前半は、夢吉に「オリンピックに出ろ」とおっさんがけしかけ、ウインタースポーツについてよく知らない夢吉がどんな種目があるか、日本でオリンピックに向けて頑張っている団体や個人を取材・研究していく中で、オリンピックの種目とか歴史・日本の現状などが読者に紹介されていく。個人的には、知らなかったことが多く面白かった。
 「夢はトリノ」の後半は、東野圭吾と夢吉と編集者の3人でトリノオリンピックを観戦した観戦記で、これも夢吉の視点から書かれている。
 すべての会場に足を運び、かなり多くの種目を観戦していて、会場がいろいろなところに分散しているため、移動距離もかなり長い。読んでいて一番印象に残ったのは、観客にとってトイレ事情がよくないことだった。これは、実際に足を運んだ者ならではの感想だと思う。
 それと、日本の成績は、メダルは荒川選手の金メダル1個しかなかったが入賞者はかなり多かったがことがわかった。これについて「おっさん」は、ある程度高く評価していた。

 『2056 クーリンピック』の方は、地球温暖化のために雪が降らない冬季オリンピックが行われなくなった未来世界を描いた近未来小説である。クーリンピックという、その時代から見ると昔行われていた冬季オリンピックを記念した、エキビジョンばかりでメダルをかけた真剣勝負のない、冬季オリンピックに多少は似ていると言えなくもない行事の様子が描かれている。
 地球温暖化に対して警鐘を鳴らす内容で、作者のウインタースポーツに対する愛が感じられる内容だ。

 全体的には、知らなかったことがいろいろとわかり、ノンフィクション的な面白さがある内容だった。もちろん東野圭吾の作品の中では、力を入れて書いた小説の方が相対的に見れば面白いが、これはこれで良さがあると思った。