筒美遼次郎のブログ

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東野圭吾作品の分類学

 作家の作品をいくつかの系統にわけるというのは、わりあいよくあることだと思う。

 わかりやすくわけられる作家としては、例えば、帚木蓬生や宮尾登美子がいる。

 帚木蓬生の場合は、テーマによって、医学ものと近現代史というふうにわけるのが適当だと思う。医学ものは『閉鎖病棟』『安楽病棟』など、近現代史ものは『ヒトラーの防具』『天に星 地に花』『逃亡』『水神』など。

 宮尾登美子の場合は、土佐ものと伝記ものというふうにわけるのが有力なわけ方だと思う。土佐ものというのは、林真理子の命名で、宮尾登美子が生まれ育った高知県に関する題材を書いた作品で、『櫂』『陽暉楼』『鬼龍院花子の生涯』『一弦の琴』など。自伝的な作品が多い。伝記ものは『クレオパトラ』『天璋院篤姫』『義経』などがある。林真理子は、土佐ものの方がお薦めだと書いている。

 東野圭吾の場合はどうやってわけるのがいいか、と考えてみるとこれがなかなか難しい。

 ミステリー作家なので、推理小説としての傾向でわけるならば、本格もの、社会派もの、ユーモアもの、パロディーものの4系統になるのだろうか。ただし、東野圭吾の書いたものの中には推理小説ではないのもある。エッセイとかSF小説などである。それと、『夜明けの街で』という小説があるが、これは一応殺人事件と捜査がでてくるが、不倫と家庭生活に関することにかなりの枚数を費やしていて、推理小説というよりは恋愛小説と言った方がよさそうだ。

 本格ものというのは、言うまでもなくトリックや謎を重視した作品で、デビューしてから10年くらいまでに書かれたものが多い。『放課後』『ある閉ざされた雪の山荘で』『仮面山荘殺人事件』『十字屋敷のピエロ』など。

 社会派ものは、『白夜行』『幻夜』『片想い』など。登場人物の生きて来た長い時間の流れを辿る作品が多く、かなりの長編が多い。松本清張的と言っていいものが多いと思う。

 ユーモアものは、『殺人事件は雲の上』『浪花少年探偵団』『しのぶセンセにさようなら』『あの頃ぼくらはあほでした』など軽快でさくさく読める楽しい作品で、短編とか長編でも章の独立性が高いものが多い。赤川次郎の作品とわりあい似ている。

 パロディーものというのは、本格ものの裏がえしなので、本格ものに入れてもいいし、楽しい作品が多いのでユーモアものに入れてもよく、迷う作品である。『名探偵の掟 (講談社文庫)』『名探偵の呪縛 (講談社文庫)』など。

 あるいは、推理小説評論によく見られるような犯行のときに使われるトリックとか犯人の動機等々によって分類する方法もあるだろう。もちろん、これらも推理小説というカテゴリーの中における分類方法である。

 他にも、首都圏とか関西とかとか地域が限定できない別荘や豪邸とかスキー場など舞台となる場所によってわける方法も有力だし、視点とか書かれた時期とか雑誌連載・書き下ろしといった発表形態とか商業的に売れたかどうかとか、あるいは、ハッピーエンド・バッドエンド、白い小説・黒い小説、性善説の小説・性悪説の小説といった小説のストーリーのあり方や小説の底に流れる作者の考え方でわける、等々いろいろなわけかたがあると思う。

 それらについては項目を改めて書く予定である。